RESEARCH
未知の隕石クレーターを探す研究
日本では、長野県の御池山が隕石クレーターとして報告されています。2025 年から 2026 年にかけて、日本全土の赤色立体地図を誰でも見られるようになりました。この研究では、世界の既知の衝突痕で確かめた処理を日本全土に当てて、まだ見つかっていないクレーターを探します。方法と経過は、このページで公開しています。
QUESTION
研究の問い
隕石の衝突でできた構造は、世界で 200 以上が確認されています。日本では、長野県の御池山が隕石クレーターとして報告されています(Sakamoto et al. 2010)。日本は山が険しく、雨や森林によって地形が変わりやすい国土です。このため、ほかのクレーターが見落とされてきた可能性があります。
御池山の構造は、山頂を含む南東斜面にある直径約 900 m の半円形の地形で、その成因は長く議論されてきました。2005 年には、石英の衝撃変成組織が報告されました。2010 年には、約 2 mGal の負の重力異常も報告されています。御池山の研究も、半円形の地形が出発点になっています。
近年、航空レーザ測量による 1 m の標高データが全国で整備されてきました。地形を読み取りやすく表す赤色立体地図も、日本全土で見られるようになりました。日本全土を人の目で調べることは現実的ではありません。そこでこの研究では、世界の既知の衝突痕で確かめた処理と、機械学習による判別を組み合わせて、国土全体を調べます。
日本の隕石クレーター
御池山(長野県飯田市)
- 場所
- 赤石山脈の西麓。御池山(標高 1,905 m)の山頂を含む南東斜面
- 形
- 直径約 900 m の半円形(円の約 4 割が残存)
- 証拠
- 石英の衝撃変成組織(PDFs)、約 2 mGal の負の重力異常(114 測点)
- 文献
- Sakamoto et al. 2005(LPSC XXXVI)、Sakamoto et al. 2010(Meteoritics & Planetary Science 45)、坂本・志知 2010(日本惑星科学会誌 19)
近年の公開データの整備
- 2002千葉達朗らが赤色立体地図を考案しました(アジア航測)。斜面の傾斜と、地上開度・地下開度から求める尾根谷度を、一枚の画像に表します。
- 2023国土地理院が、航空レーザ測量による 1 m の標高データ(DEM1A)の提供を始めました。同じ年に、赤色立体地図の特許の期間が満了しました。
- 20256 月に、全国の赤色立体地図をブラウザで見られるようになりました(全国 Q 地図)。10 月には、DEM1A の提供範囲が全国の 3 次メッシュの約 61% になりました。
- 20262 月に、林野庁が森林の航空レーザ測量の標高データと微地形表現図の公開を始めました。DEM1A の提供範囲も、2 月と 7 月に広がりました。
出典: 千葉ほか 2007(地図 45(1))、千葉 2026(東京地学協会 特別講演会の案内)、国土地理院の発表(2025 年 3 月・10 月)と DEM1A の更新履歴、全国 Q 地図の案内、林野庁の資料(2026 年 3 月)。
研究の広がり
赤色立体地図の考案者は、この表現が人だけでなく AI にとっても地形の特徴を捉えやすいかもしれない、と述べています(千葉 2026)。この研究の方法は、次の分野にも使えます。
- 海外高精細な標高データが公開されている国や地域で、同じ処理と判別を使えます。
- 月面赤色立体地図は、月の裏側のクレーターについても作られています(千葉 2026。かぐやのレーザ高度計のデータによる)。
- 考古学赤色立体地図は、森林に隠れた古墳の発見に使われています。島根県奥出雲町では、前方後円墳 77 基が新たに見つかったと報じられました(山陰中央新報、2023 年)。
METHOD
研究の方法
研究は四つの段階で進めます。まず、日本で使える観測とその質を調べます。次に、その質に合わせて、世界の既知の衝突痕に同じ処理を施します。三つ目の段階では、既知の衝突痕を取りこぼさない判別の仕組みを作ります。最後に、その仕組みを日本全土に当てます。使うデータと処理は、すべて公開されているものです。
-
I
日本の観測の質を、場所ごとに把握する
- データ
- 国土地理院の数値標高モデル(DEM1A〜DEM10B)、提供範囲と作業年度の索引、公共測量の記録、地上重力データ、全国航空磁気異常
- 内容
- 日本全土に施せる観測と処理を一覧にし、それぞれの作り方、細かさ、精度を、配布元の出典とともに記録します。標高データについては、場所ごとに、どの年度のどの測量に由来するかまで調べます。
- これまで
- 観測 90 系列と処理 44 群の一覧を、出典 95 件とともに作りました。御池山の 1 m の標高データは、令和 4 年度に長野県が砂防計画のために行った航空レーザ測量に由来することを確かめました。
-
II
世界の既知の衝突痕に、同じ処理を施す
- データ
- 世界の衝突構造の台帳 354 件、米国・カナダ・エストニア・ドイツの公開 1 m 級標高データ
- 内容
- 全国 Q 地図と同じ式と定数で、赤色立体地図を作ります。海外の標高データは、日本と同じタイルの格子に変換してから処理します。格子の 1 画素は北緯 35 度で約 0.98 m、開度の探索半径は 50 画素です。構造の直径に合わせて並べます。そのうえで、中心からの距離ごとに計測します。
- これまで
- 4 か国の 48 構造で標高データを整え、赤色立体地図を作りました。このうち 43 構造は、全国 Q 地図と同じ式と定数で処理しました。39 構造は、直径に合わせて並べて計測しました。
-
III
既知の衝突痕を取りこぼさない判別
- データ
- 段階 II の処理結果、重力・磁気・地質のデータ
- 内容
- 学習から意図的に外した既知の衝突痕を、位置や種類を教えずに衝突痕と判別できるかで評価します。合格の条件は、既知の衝突痕を一つも取りこぼさないことです。赤色立体地図に加えて、重力・磁気・地質のデータも組み合わせます。
- ねらい
- 御池山のように侵食が進んだ山地の構造も、事前の情報なしに検出することです。
-
IV
日本全土への適用
- データ
- 日本全土を覆う 100 万枚を超える標高タイル(全国 Q 地図)、全国の重力・磁気・地質のデータ
- 内容
- 同じ処理と判別を、日本全土に一度に当てます。1 m の標高データの範囲が広がれば、調べられる範囲も広がります。
- ねらい
- 検出された候補の中から、現地の地質調査で確かめる地点を選ぶことです。衝突の証拠には、衝撃を受けた石英などがあります。
「同じ処理」の意味
赤色立体地図は、二つの画像を乗算合成したものです(千葉ほか 2007)。一つは、斜面の傾斜を赤の彩度で表した画像です。もう一つは、尾根谷度を明るさで表した画像です。尾根谷度は地上開度と地下開度の差の半分で、尾根で大きく、谷で小さくなります。
この研究では、全国 Q 地図の演算を、式と定数まで特定しました。自家製の処理も、それに合わせました。海外の構造の標高データは、日本と同じタイルの格子に変換してから処理します。比べるときは、式と定数に加えて、入力の標高データの版、格子、探索半径、元の観測の質もそろえます。
出典: 千葉達朗・鈴木雄介・平松孝晋 2007「地形表現手法の諸問題と赤色立体地図」地図 45(1): 27–36。
DATA
データの出所
処理と判別には、公的機関が公開している観測データと、公開されている衝突構造の目録だけを使います。各データの作り方と細かさは、配布元の説明を出典にしています。
日本の観測データ
| データ | 提供 | 細かさ | 範囲 |
|---|---|---|---|
| 数値標高モデル DEM1A(航空レーザ測量) | 国土地理院 | 1 m | 全国の 3 次メッシュの約 61%(2025 年 10 月)、以後も拡大 |
| 数値標高モデル DEM5A・DEM5B・DEM5C | 国土地理院 | 5 m | 地域ごと |
| 数値標高モデル DEM10B(1/25,000 地形図の等高線から作成) | 国土地理院 | 10 m | 日本全域 |
| 赤色立体地図・標高タイル | 全国 Q 地図 | 場所ごとに最も細かいもの(0.5〜10 m) | 日本全土 |
| 森林の航空レーザ測量の標高データ・CS 立体図 | 林野庁・都道府県 | 0.5 m 級 | 計測済みの地域(2026 年 2 月から公開) |
| 提供範囲と作業年度の索引、公共測量の記録 | 国土地理院 | 測量ごと | 全国 |
| JGSN2016 地上重力データ | 国土地理院 | 測点 約 1.4 万 | 全国 |
| 日本重力データベース(公開の測点データ) | 産業技術総合研究所 地質調査総合センター | 測点 約 17 万 | 全国 |
| 全国航空磁気異常 | 国土地理院 | 緯度・経度 3 分の格子(1984〜1998 年の観測) | 全国 |
| 20 万分の 1 日本シームレス地質図 V2 | 産業技術総合研究所 地質調査総合センター | 縮尺 20 万分の 1 | 全国 |
海外の既知の衝突痕のデータ
| データ | 提供 | 細かさ | 範囲 |
|---|---|---|---|
| 3DEP(The National Map) | 米国地質調査所(USGS) | 1 m | 米国 |
| HRDEM(高解像度数値標高モデル) | カナダ天然資源省 | 1 m | カナダ |
| 数値地形モデル | エストニア土地庁(Maa-amet) | 1 m | エストニア |
| DGM1 | バイエルン州測量局(LDBV) | 1 m | ドイツ バイエルン州 |
| DGM1 | バーデン=ヴュルテンベルク州 地理情報・土地開発局(LGL) | 1 m | ドイツ バーデン=ヴュルテンベルク州 |
| 衝突構造の目録 | Earth Impact Database(PASSC)、Impact Earth | 構造ごと | 世界(台帳 354 件に統合) |
細かさは、配布されている格子の間隔か、測点の数です。範囲は 2026 年 10 月に確認したものです。
RESULTS
これまでの成果
世界の既知の衝突痕を、日本の赤色立体地図と同じ処理で並べました。このページの図は、すべて公開の標高データから作成したものです。
354件
世界の衝突構造の台帳です。比較のための対照と否定例も含みます。このうち 240 構造に、論文 2,011 本(DOI)を結び付けました。
48構造
4 か国の公開 1 m 級標高データで、赤色立体地図を作成した既知の衝突痕です。このうち 43 構造は、全国 Q 地図と同じ式と定数で処理しました。
36/ 36 タイル
御池山の 36 タイルすべてで、全国 Q 地図の演算との差が RGB 各 1 段階以内でした。
既知の 28 構造の並べ図
直径に合わせた並べ図
構造の直径に合わせて表示すると、直径 40 m の孔から 4 km 級の構造までを、同じ尺度で比べられます。直径に合わせて並べた 39 構造のうち、7 構造を示します。







各図の一辺は構造の直径の 2 倍で、北が上です。直径は台帳の値です。エストニア土地庁、米国地質調査所(3DEP)、カナダ天然資源省(HRDEM)の公開 1 m 級標高データから作成しました。
御池山での検証
日本側の処理が全国の赤色立体地図と同じ画像を作ることを、御池山で確かめました。
- 入力
- 国土地理院 DEM1A の標高タイル(ズーム 17)の中央 36 タイル、約 1.8 km 四方
- 比較
- 自家製の処理による画像と、全国 Q 地図の色の演算を同じ標高に施した画像
- 結果
- 36 タイルすべてで、各画素の RGB の差は最大 1 段階(256 段階中)でした。
日本の公開観測の点検
日本側の基準とする観測の質を、一次資料で確かめています。
- 空中磁気全国の陸域の空中磁気は、1981〜1983 年の調査で、主測線の間隔 3〜4 km、交差測線の間隔 20 km、海抜約 1,372 m の一定の高度で測られました。1985 年の原報告で確かめました。
- 重力国土地理院の地上重力 14,029 点と、産業技術総合研究所の公開測点 173,365 点を使いました。陸域に 0.02 度間隔で置いた 95,484 の評価点ごとに、周りの測点を数えました。その結果から、全国の測点密度の地図を作りました。
- 1 m の標高国土地理院の索引をもとに、御池山の 1 m の標高データの原典を、公共測量の記録の原本まで確かめました。令和 4 年度に長野県が砂防計画のために行った、854 km² の航空レーザ測量です。
- 原文の照合国土地理院の基盤地図情報 FAQ、全国航空磁気異常の説明、JGSN2016 地上重力データ説明書、産業技術総合研究所の日本重力データベースの説明を、原文で読みました。数字は、これらの原文と照合しています。
RECORD
進み方の記録
研究の経過は、版管理システム(git)に日付とともに記録しています。主な出来事は次のとおりです。
- 拠点
研究の拠点の整備それまでに行ってきた試行の記録を一か所に集め、一次資料で検収しました。以後の方法と経過を、すべてここに記録しています。
- 調査
日本の既知の衝突痕の確認日本で隕石クレーターと報告されている御池山について、報告の原著(Sakamoto et al. 2005、坂本・志知 2010)を読み、証拠を確かめました。赤色立体地図の作り方は、考案者の原著(千葉ほか 2007)で確認しました。国土地理院の標高データの作り方と整備範囲も、原文で確認しました。
- 処理
日本と海外を同じ処理で並べる世界の衝突構造の台帳を 354 件にまとめました。エストニアの 1 m の標高データで、Kaali など 3 構造を処理しました。御池山の 1 m の標高データにも、同じ処理を施しました。これにより、日本と海外の既知の構造を初めて同じ処理で並べました。
- データ
各国の標高データの取得各国の配布元から 1 m 級の標高データを取得する道具を作りました。46 地域の取得を終えました。
- 文献
論文の台帳Crossref と xDD から論文を引き、354 構造のうち 240 構造に、論文 2,011 本(DOI)を結び付けました。研究の記録、構造、論文は、一件ずつのカードに整理しました。
- 検証
全国の赤色立体地図との一致全国 Q 地図の演算を、式と定数まで特定しました。自家製の処理もそれに合わせました。御池山の 36 タイルで、RGB の差は各 1 段階以内でした。
- 処理
既知 28 構造の並べ図全国 Q 地図と同じ処理を、海外の既知の構造に施しました。その結果を並べた最初の図を作りました。
- 処理
直径に合わせた並べ図39 構造を、それぞれの直径に合わせて並べました。直径 40 m の孔から 4 km 級の構造までを、同じ尺度で比べられるようになりました。
- 調査
日本の観測の一覧日本全土に施せる観測 90 系列と処理 44 群を、出典 95 件とともに一覧にまとめました。
- 調査
観測の質の確認全国の重力測点の密度を、95,484 の評価点で調べました。空中磁気の測線の間隔を、原報告で確かめました。御池山の 1 m の標高データの原典を、公共測量の記録で確かめました。
2026 年 10 月 7 日までのコミット数は 292 です。
CLAUDE
Claude の役割
この研究は、Anthropic の Claude(Claude Code)を監督役として進めています。研究の問いと最終的な判断は、人が担います。Claude は主に次の作業を担当しています。
- 研究の設計研究の問いを、いくつかの段階に分けます。各段階で何をどのように比べるかを設計します。
- 照合判断の根拠にする数字は、論文、測量の記録、配布元の説明の原文で確かめます。原文で確かめた数字は、ほかの調査から得た数字と区別して、出所とともに記録します。
- 意味の確定「1 m の標高」が何から作られ、どこまでが実測かを原文で確かめます。全国 Q 地図と国土地理院 DEM1A の標高を画素ごとに比べた結果(御池山で平均 0.46 m の差)から、日本側の入力を全国 Q 地図の標高に決めました。
- 処理の検証全国 Q 地図の演算はブラウザの中で動くため、式と定数はそのソースにあると見定めて、特定させました。自家製の処理をそれに合わせたうえで、同じ標高データで二つの処理の画像を比べた結果を検収しました。
- 依頼と検収長時間の調査や実装の依頼文と、PC で実行する作業の指示を書きます。返ってきた成果を読み、要所は一次資料で確かめて、採否を記録に残します。
COLLABORATION
共同研究のお願い
この手法を一緒に試していただける研究者を歓迎します。地形・重力・磁気のデータの読み方、既知の衝突痕の現地での知見、候補地の確かめ方など、どの段階からでもご相談ください。